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シューティング・ザ・ライツ

舞台における時空間の作り方。林英哲 オーチャードホールコンサートの場合。

「林英哲さんとは、もう20年以上創り続けてきました。」

今回の「情熱の青雲・風雲」は津軽三味線・上妻宏光さんと尺八・藤原道三さんの第一部と舞踊・尾上青楓さん、そして声明と、今回英哲さんが考えたコンサートは世代を超えた演奏者との共演による伝統邦楽の創造というもの。それぞれの演奏者が、密度の濃いスケジュールを調整しながら全体リハーサルを行ったのは、五月に入ってから黄金週間の最中でした。最終的に照明スタッフのチーフと図面をまとめ、現場での進行を確認したのは公演の2,3日前でした。デザインにはいろいろなやり方があると思いますが、林さんとの仕事では特に、“彼がどういう空間のなかで演奏すると心地よいのか”ということを常に考えます。このことはイコール、彼がその時間集中できる空間であるはずです。そして最終的には観る人、聴く人のところにも“いいコンサート、ライブだった”という感想に繋がるものだと思うのです。もちろん格好良く素敵に見えなければお金をいただけないという、いわゆるプロ意識もありますから、“サービスとしての光”というのも織り込みますが、なんでもガンガンやればいいというわけではないので「白いご飯」と僕が名付けている割合シンプルな光のシーンもつくり、それとのバランスを考えたりするのが大事なのですけれども。
light.gifステージの照明

eitetsu_uchiawase01.gif照明スタッフ、ライズの安藤元映チーフ

「照明デザイナーと照明スタッフの関係。」

僕は基本的にプランと呼ばれるものを考える訳ですが、自分で図面を描く場合もあれば照明スタッフと機材の確認などをしながら、打合せを行う場合もあります。劇場によって機材や設備が違ってくるので、スポットが足りない場合は照明スタッフの会社から持っていく場合もあり、具体的に何が可能なのかということの検証と明かりの基本的なイメージを一度にまとめて考えたいのです。よく“コンセプトよりコンセント”と冗談で言うのですが、舞台の照明は電源容量や照明を吊るバトンの位置や間口の広さなど、設備的なことを押さえなければ始まらないのです。もちろん、舞台セットや全体の進行などは当然の話ではありますが。その辺りを含め照明スタッフと確認しながらやる必要があるのです。それから実際の照明操作はオペレーターという役割の人がやるので、その人の技術力というのも実際は考慮します。正確に言えば、照明を吊るところから、当て込み(シューティング)、シーンの明かりづくり、本番の操作まで、ある時間の中で整理整頓する技術と本番時にライブな感覚をもって操作するという一連の技術のことであります。だから人ということもできますが、そのチーム、会社ということも出来ます。本番時の照明操作は、現在、シーンの記録の出来る操作卓と呼ばれるものに明かりのシーンを記憶させ、舞台の進行とともに切り替えの操作をするのですが、これが誰がやっても同じというわけではないのです。でもこれは、どちらかが“いい”“わるい”という話しではなくて、僕たちの仕事は協力体制のもとでやる仕事なので、何かが破綻してしまってはいけないということなのです。そして本番のその時間を作り出すのは実際オペレーターにかかっていますから、裏方ではありますが、言ってみればオペレーター自身が楽しみ、ステージに関与していく方がいいと考えるためです。

仕込み・リハーサル・本番。

「タイムリミットは10時間。」

当日は朝9時から搬入、舞台の立て込み、音響仕込み、そして照明は吊り込み、シュート、明かりづくり、そしてリハーサルと続くわけです。今回はセット替えが多くあるので大道具スタッフや運搬手伝い、音響、照明スタッフや太鼓運搬、劇場スタッフが、それはもう時間との戦いに突入していきました。本番まで10時間。でもその作業量の多さは、客入れ時間までギリギリかかる予測でした。照明は当て込むものが舞台上にないとシュートできないので、セットを組み替えリハーサル、サウンドチェックも同時に行いながら進んでいきます。前後のシーンとのバランスを考えたりしながら、照明の向きや光の強さ、タイミングを頭の中で整理しながら、舞台上や天井裏、調光卓にいるスタッフ達と通信しながら決め込んでいきます。事前に考えてきたことをもちろんベースにはするわけですが、僕は現場でつくることに重きを置いています。自分の目を信じて今見えているものに集中するといいますか、そうすれば現場の状況が多少変わってしまうところも飲み込めます。むしろ劇場に入る前には、変わってくるところに余地を残しておいているとも言えるかもしれません。現場ではその代わりものすごい集中力と速度が要求されますけれども。そのフットワークで明かりをつくり続けてきています。
eitesu_genba01.gif照明シューティング

pc.gif光の映像をMacで描く

現場でつくる。

また映像という光の背景も使いますが、それは照明器具では出しにくい色を出してみようと思ったからです。たとえば「灰色」という色はスポットライトではつくりにくいのですが、プロジェクターでは色が現れるからです。これらの光の絵柄はすべて自らアップルコンピュータで描いていますが、映像作家の方と違うのは曲自体のイメージを描くよりかは、そのアーティスト、もしくは演奏をイメージすることのほうが多いのです。映像はその空間をつくる一要素ではありますが、光と映像で盛り上げ、煽るっていくような(これもライブなオペレーションが必要ですが)こともありますが、その演奏から生まれるお客さんのイメージを阻害しないようにしなければと思うのです。たとえば「青い空」とタイトルがあった場合、こちらのイメージでひとつの色を投影してしまうわけですから、気をつけないといけません。だからといって頭で考えると「逆の赤」でいくか?というふうになったりもしますから、そうではないのだと思います。「現場でつくること。」これは何より頭の中だけの創造を信じないで、自分の身体が気持ちいいと感じることを信じることだと思っています。光でステージをつくることにとってそのことは、思ってるより重要な気がします。言ってみれば照明家は“光の演奏者”になるべきだと思うのです。そういうわけで、映像も現場で微妙に修正作業を行ったりもします。これらのことは僕自身の考えだけでなく、コンサートに毎回来て下さる方にも、何か新しい演奏を聴いて欲しいと考える英哲さんの姿勢がひとつの原動力になっているからです。